2026/07/24 18:00
2026年6月24日、東京・渋谷のSpotifyオフィスにて【NexTone Music Conference vol.2 "Spotify Masterclass for Gaming Music"】が開催された。
本カンファレンスは、著作権管理およびディストリビューション事業を展開する株式会社NexToneと、世界最大級のオーディオストリーミングプラットフォームであるSpotifyが共同で開催したもので、ゲームメーカーの音楽担当者を中心に多くの関係者が集まった。
ゲーム音楽が単なるBGMの枠を超え、独立した音楽コンテンツとしてグローバルなチャートを賑わせる昨今、そのIP(知的財産)価値をデジタルプラットフォームでいかに最大化すべきか。NexToneによるビジネスアップデートと、Spotifyを活用した具体的なプロモーション事例から、その最適解を探る。
NexToneの”ダブルエンジン”が導くゲーム音楽のグローバル展開
冒頭、NexToneの垣内貴彦氏より、同社のビジネスアップデートとゲーム音楽における取り組みが共有された。2016年の発足から10周年を迎えたNexToneは、著作権管理事業とディストリビューション事業のダブルエンジンによって、権利者のIP価値を最大化することをミッションに掲げている。
その成功事例として筆頭に挙げられたのが、株式会社アトラスとの10年にわたる取り組みである。2016年の著作権管理委託を皮切りに、ディストリビューション契約、全世界での管理地域拡大、YouTubeコンテンツIDの運用開始と段階的に連携を深めてきた。その結果、アトラスサウンドチームの楽曲はBillboard JAPANへのチャートイン、Spotifyの年間ランキングにおいて「海外で最も再生された日本のアーティスト」への選出、さらには【Music Awards Japan】の「Top Global Hit From Japan」「Best Japanese Song in North America」へのノミネートといった目覚ましい実績を残している。
垣内氏は「日本発のコンテンツとして、ゲーム音楽のポテンシャルは極めて高い」と強調する。同社は現在、世界194のサービス、238の地域への一括配信を可能にしており、Steamをはじめとしたゲームと親和性の高いプラットフォームとの連携も強化している。
「発見の場」から「カルチャーの発信地」へと進化するプラットフォーム
続いて、Spotifyの最新概況が紹介された。現在、Spotifyは世界で7億6,100万人以上の月間アクティブユーザーを抱え、180以上の国と地域で展開されている。海外における国内楽曲のストリーム数は前年比で20%以上の成長を記録しており、多様なジャンルの楽曲が国境を越えて聴かれている現状がある。
特筆すべきは、ユーザーの視聴形態の変化である。平均視聴時間は1日あたり2時間に及び、通勤通学時や作業中といった「ながら聴き」のシーンに深く浸透している。Spotifyは現在、単なる音楽の「発見の場」から、ユーザー同士がインタラクティブに繋がり、コミュニティを形成する「カルチャーの発信地」への進化を目指している。こうした進化は、熱狂的なファンベースを持つゲームIPにとって、音楽を通じたエンゲージメント向上の大きな機会となっている。
作品世界をプラットフォームへ拡張する――「体験」をベースにした、これからの作品プロモーション
カンファレンス後半のパネルディスカッションでは、NexToneの佐藤礼理氏、一宮百花氏を交え、実際の事例に基づいたSpotifyの活用戦略が深掘りされた。プロモーションの鍵となるのは、受動的なリスナーを能動的なファン、さらには「スーパーファン」へと引き上げるファネルの構築である。
そのための強力なツールの一つが「Canvas(キャンバス)」だ。これは楽曲再生中に8秒間のループ動画を表示させる機能で、アルバムカバーの代わりに視覚的な世界観を提示できる。
具体的な事例として 、あるゲームのバトルシーンを3分割の縦型動画に再構成して表示させたり、ループの切れ目を感じさせない演出で楽曲の視聴時間を延ばす工夫がなされている。また、実際のプレイ動画の一部を切り取ることでゲーム体験を再起させ、ゲーム本体への送客に繋げる手法も紹介された。
統計データによれば、Canvasを設定することで楽曲のシェア率は平均145%増加し、アーティストページへのクリック数も9%増加するという。一宮氏は「通常のアーティスト以上に、ゲームIPは映像素材が豊富であり、Canvasとの相性は断然良い」と語る。
そして映像による訴求は、Canvasだけに留まらない。Spotifyでは現在、視聴中の音源を公式ミュージック・ビデオに切り替えられる機能の展開を強化している。ミュージックビデオとともに発見された楽曲は、その後の7日間で保存・シェアされる確率が24%向上し、繰り返し再生される確率も34%向上するという検証結果も示された。
さらに、ミュージック・ビデオに加えて「パフォーマンス・ビデオ」の活用も提案された。これは、ライブ映像やオーケストラ演奏、スタジオセッションなど、映像そのものに付随する音源を映像と一緒に配信する形式だ。一宮氏は「ゲーム音楽であれば、ライブ音源やオーケストラの映像、あるいはスタジオセッションなども配信できる」と述べ、通常のミュージック・ビデオの枠に捉われない、ゲームIPならではの映像活用の広がりについて言及した。
また、 リリースに向けた期待感を醸成する「Pre-save(プリセーブ)」施策も有効だ。NexToneでは、プリセーブしたユーザーに対し、オリジナルの壁紙やボイスメッセージ、コメント動画といった特典を付与するキャンペーンを独自に実施している。これにより、単なる機能としての事前登録を超えた、ファンへの直接的なアプローチを可能にしている。
さらに、コミュニティを盛り上げる施策として、X(旧Twitter)を軸とした「リスニングパーティー」の事例も紹介された。これは特定の時間に一斉に楽曲を再生し、ハッシュタグを付けて裏話や感想を投稿し合うイベントである。同社でのゲーム音楽における実施一例では、作曲家からのコメントや裏話などをゲームの公式アカウントで投稿し、特定のプラットフォームに依存しない形でファン同士の熱量を高めることに成功している。
成功の鍵を握る「メタデータ」の精緻化と未来への展望
セッションの締めくくりとして、最も重要な要素である「メタデータ」の整備に焦点が当てられた。
メタデータとは、楽曲名、アーティスト名、作家情報、言語表記といった情報の集積である。佐藤氏は「日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)などのマルチリンガル対応・ローカライズの話になりがちだが、IP・ブランド名のメタデータ活用や、アーティスト名の整備、アーティストページへの紐づけ等のテクニックも再生数向上に有用だと語り、また作詞、作曲家情報を網羅することで、著作権使用料の徴収精度向上にも寄与していると言及する。
パネルディスカッションの最後には、NexTone代表取締役COOの荒川祐二氏が登壇。1日10万曲以上の新曲が供給されるSpotifyにおいて、「楽曲を見つけてもらう第一歩は、地道なメタデータの整備にある」と強調。「我々はその『面倒な部分』を共に背負う伴走者として、皆様のIP価値を世界へ届けていきたい」と締めくくった。
現在、日本のゲーム音楽はアニメと並び、世界市場で極めて高いポテンシャルを発揮している。このIP価値を最大化させるためにNexToneとSpotifyが示したデジタル戦略は、今後のグローバル展開における最適解の一つと言えるだろう。緻密なデータ整備と戦略的なプロモーションを軸とした連携は、日本のコンテンツが世界を席巻するための、強力な羅針盤として機能するはずだ。
Text by 龍田優貴
Photo by 筒浦奨太
◎イベント情報
【NexTone Music Conference vol.2 "Spotify Masterclass for Gaming Music"】
2026年6月24日(水)
東京・Spotify Japan Open Office
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